来たる2019年の年の瀬、令和元年の最初の年越しを前に、灰と幻想のグリムガル15巻「Level.15 強くて儚きニューゲーム」が遂に発刊されました!
ん?去年の年の瀬も新刊出た!とか騒いでて、そっから2019年はナンバリングの新刊が出てない気が・・(笑)短編集が2巻分出ましたが、新たなナンバリングが出るのは一年ぶりですね。
今年は十文字先生、アニメのシナリオとか色々やってたんで、まあ忙しかったんでしょう。ただ、2020年は東京オリンピックなんていいからグリムガルを毎月発刊して欲しいですね(願望)
というわけで(どういうわけだよ)、この記事では灰と幻想のグリムガル15巻の感想、考察を書き連ねていこうと思います。かなりガチガチに話しているので、読みたいとこだけ呼んでくれればOKです。
この記事の概要
Level.14までの復習とあらすじ
まずはLevel.14までの復習とLevel.15のあらすじをチェックしていきましょう。
Level.14までの流れ
最初にここまでの流れをざっと振り返ってみます。グリムガルも遂に15巻まで進んだということで、ストーリー的にかなり複雑になってきてるんで、色々忘れてる人も多いはず。
[list class="stitch-orange"]
- グリムガルへ転生
- オルタナ
- 旧市街・サイリン鉱山(マナトLOST)
- デッドヘッド監視砦(モグゾーLOST)
- ワンダーホール(クザクIN)
- ダスクレルム
- ダルングガル
- サウザンバレー(セトラIN/ランタOUT)
- ジェシーランド(メリィ復活)
- エメラルド諸島(ユメOUT)
- レスリーキャンプ
- パラノ
- オルタナ(ユメ・ランタ合流)
[/list]
流れをまとめてみるとこのようになります。15巻までくると、流石に長くなりますよね。全体の物語としては、ユメがエメラルド諸島でモモヒナ海賊団へと修行に出て、「オルタナで合流ね!」という約束をしていたところで、悪夢のような世界パラノへと迷い込みます。
そんで、そこでアリスやら色々な人間と出会い、色々あって脱出。するとその先にはひよむーと「ご主人様」が待っていて、そこで再び記憶をなくす、つまり「アウェイク(目覚めよ)」でニューゲームが始まるわけです。
もちろん、その場所は1巻と同じオルタナの近場にある謎の塔。この場所がどこになるかで色々考察してましたが、結局また1巻と同じ場所に戻るというオチでしたね。
Level.15のあらすじ
というわけで、ここまでの流れは大体OKかなと。それではLevel.15のあらすじを話していきますね。ガッツリネタバレしてるんで、この点は気をつけてください。
大体の流れはこのようになります。
[list class="stitch-orange"]
- 開かずの扉でアウェイクする
- グリムガルでサバイバル生活スタート
- 本土からの遠征軍と行動を共にする
- オルタナへ潜入。バルバラと再開
- オルタナを奪還することになる
- オルタナへ再度潜入。戦闘開始
- バルバラ死亡、クザク死にかけるもギリセーフ
- ハルヒロがゴブリンの王の首を取る
- オルタナ辺境伯にモーギス将軍が就任する
[/list]
読後の素直な感想としては、面白かったですよ、普通に。実際に読んだ方が当然楽しめるので、気になる方はぜひ手にとってみてください。もちろん、色々と言いたいことがあるので、それは後で話してます。
特に記憶を失ったハルヒロたちがもう一度パーティーとしてまとまって、ゴブリンに統治されたオルタナを再度取り戻す様は・・、なんというか感動。戻るべき場所に戻った感がノスタルジーを生みますし、何よりも「ゴブリンスレイヤー」の本領発揮ですからね。
やってることはゴブリンを殺すことなので、この辺は1巻のオマージュと見ることもできます。ハルヒロたちが記憶を失っているという点も1巻と同じものの、ここまでの経験は記憶がなくても染み込んでいるのです。この辺りの成長を垣間見ることができたのが、ワクワク感を生んでくれました。
Level.15の考察
14巻までの流れから15巻のあらすじまでザックリ見てきたところで、ここからは15巻の考察をしていきたいと思います。
登場人物について
まずは15巻で新たに出てきた登場人物についてまとめてみます。グリムガルは色々な人間が出てきますから、自分の備忘録的な感じでもありますね。ダーっと紹介していくので、ちょっとアレかもしれませんがご容赦ください。
[memo title="アラバキア王国関連"]
- グラハム・ラセントラ
- オルタナで辺境軍の指揮を取った将軍。連合の攻撃を受け、本土に援軍を要請するために使者を送る。ジャンボと一騎打ちするも、戦死した。
- ジン・モーギス
- 将軍。本土で蛮族を10年以上討伐し続け、黒い猟犬(ブラックハウンド)の指揮官に就任した過去がある。
- ダイラン・ストーン
- モーギス将軍の腹心。天望楼突入部隊の隊長を務めた。
- アラバキア王国遠征軍
- 辺境(オルタナ)奪還を命じられたモーギス率いる軍。内実は、ごろつきを集めた死兵達であり、本土からは捨て駒扱いされている。
- アントニー・ジャスティン
- オルタナ辺境軍第一旅団戦士連隊所属。ラセントラ将軍の使者の護衛として本土へと赴き、流れで遠征軍に加わった。
- ニール
- モーギス率いる遠征軍の斥候。本土生まれであり、辺境生まれのアントニーとは反りが合わない。
- レン・ウォーター
- 准将。かつてデッドヘッド監視砦攻略隊の指揮官を務めた。名門ウォーター家の生まれで、オルタナ陥落後の生死は不明。
- ジョルド・ホーン
- 准将。ラセントラ将軍の側近だったが、オルタナ陥落の際に戦死した。
- イアン・ラッティー
- 准将。辺境生まれの辺境育ちという経歴から、本土嫌いの辺境軍での評判は良かった模様。オルタナ陥落の際に戦死した。
- ガーラン・ヴェドイー
- オルタナ辺境伯。オルタナ陥落後も生存していたが、モーギスにより粛清される。
- ヴェドイー一家
- ガーラン・ヴェドイーが属するアラバキアきっての名門。祖としてアラバキアを建国したジョージ1世ことシオドア・ジョージを持つ。
[/memo]
[memo title="ゴブリン関係"]
- モガド・グァガジン
- オルタナを実質統治するゴブリンの王。"モガド"が王を意味するので、"グァガジン王"という表現が正しいか。
- モド・ボッゴ
- ゴブリンの二番手の王。"モド"が副王を意味するので、"ボッゴ副王"という表現が正しいか。
[/memo]
以上が15巻での新たな登場人物ですが、全体的にアラバキア王国関連が多かったですね。まあ、このほとんどが初出というわけではなく、今までに原作内にて名前が挙がっていました。
例えば15巻のキーパーソンであるアントニーは、デッドヘッド監視砦攻略の小隊長に任命されていたため、3巻にて一章分(一節分?)一人称視点で登場し、将軍やら准将やらについて色々言及しています。この頃から本土嫌いを極めており、特にレン・ウォーターに対して「くたばれ」と連呼するほど、本土が嫌いでした。
あとはオルタナの実質的な王だった、ガーラン・ヴェドイーとかね。こいつはレンジに展望楼に顔出せって言ったのにガン無視されたことで「この俺に従わないとは何事だ!」って感じで怒った、まあ、いわゆる、典型的な権力だけ持ってるクズですね。
出自がアラバキアを建国した名門「ヴェドイー家」なので、確かに偉いは偉いんですが、偉いだけですね。オルタナ陥落の際は唯一のオルタナ関連の人間の生存者でしたが、政治的に利用価値があったから生かされていただけでしょう。最後はモーギス将軍に粛清されて残念な最後を迎えましたが、まあしゃーない。
本土の真相とジン・モーギス将軍について
この中で特に言及しておきたいのがジン・モーギス将軍ですかね、やっぱり。彼はオルタナへの遠征軍の指揮官として本土からやってきたわけですが、なかなかに謎の多い人物です。
まず彼に与えられた遠征軍の兵士たちの質があまりにも低すぎる。ハルヒロに言わせれば「素人目にもやはり寄せ集めだとわかる」ということで、実際彼ら兵士は、
[list class="stitch-orange"]
- 農民の次男、三男
- 街のごろつき
- 捕まった脱走兵
[/list]
こういった、言ってしまえばやる気のないほぼ素人の集まりなんですよね。でも、モーギスの地位は将軍なので、普通だったらこんな兵士が与えられるわけがない。
しかも、不死族(アンデッド)やオークの集まりである諸王連合の苛烈な攻撃を受けて陥落したオルタナの奪還任務を受けているわけですから、こんな兵士を与えるということは、実質死なせに行くようなもんです。
というわけで、ここから分かるのは、
[list class="stitch-red"]
- アラバキア王国にとって、もはやオルタナは失って仕方ない場所
- モーギスが失脚し、事実上の粛清を受けた
- 本土は決して楽園なんかではない
[/list]
ここいらですよね。最も重要になるのが最初のところで、アラバキア王国にとって、オルタナは戦略的に極めて重要な拠点であることは明らかです。グリムガル全体で見ると、北から諸王連合が圧力をかけてきていたものの、どうにか最前線のデッドヘッド監視砦、リバーサイド鉄骨要塞といった拠点で彼らの侵攻を防いできたわけですが、これら二拠点を支えていたのがオルタナだったんですよね。(元々これら二拠点も奪われていたが、モグゾーが死んだ兵団司令(オーダー)「双頭の蛇」作戦で、人間族が二拠点を取り戻した)
しかし、諸王連合の侵攻により、まず二拠点が落とされ、次いでオルタナが陥落しました。オルタナより南には天竜山脈という要害があるので、オルタナが落ちると、実質的にアラバキア王国は天竜山脈以南まで後退せざるを得なくなります。こんな感じに、アラバキア王国にとってオルタナは重要な場所なはずなんです。
でも、そこをグダグダの兵士ばかりで構成された遠征軍で取り返そうとしてる。これはつまり、一応は取り返すポーズは見せるものの、実質的にオルタナは諦めたようなものです。要するにアラバキア王国は、オルタナを捨てたわけですね。
というより、捨てざるを得なかった。15巻内で、アラバキア王国は蛮族と呼ばれる、同じ人間族の王国外の勢力から、偶発的な攻撃を受け、そこへの対処にリソースを吐かされている旨が明らかになっています。同一の種である蛮族への対処でさえおぼつかないのに、他族の勢力、しかも他族の連合勢力へ対処できるかといったら、無理なんですよね。
実際、オルタナは正規軍により保っていた訳ではなく、開かずの扉から出てきた義勇兵により維持できていた場所であり、こういった事情からも、アラバキア王国の台所事情が芳しくないことは伝わってきます。
前置きが長くなりましたが、こんな感じに、アラバキア王国はオルタナを事実上諦めたわけです。そして「死兵・捨て駒」たちの指揮官として選ばれたのがジン・モーギス将軍ということで、彼もまた死にに行くようなものですから、本土内で何らかの事情により失脚し、粛清として遠征軍の指揮を取らされていると考えるのが自然。
加えて、最前線の重要拠点であるオルタナを捨てる決断をした事実から、本土が決して楽園などではなく、むしろ最前線の外部勢力にすら戦力を回せない、非常に厳しい状況であることが伝わってきます。
しかし、こんな状況の中でも、ジン・モーギス将軍はオルタナを奪還してみせました。これはハルヒロたちの協力があったからこそなのですが、よくもまあクソザコ兵たちでオルタナを取り戻したものです。軍の規律を保つために見せしめとして首をはねたのはスゴかったよね。
ただ、最後が腑に落ちん。オルタナ辺境伯であるガーラン・ヴェドイーが天望楼で生きていたものの、モーギスが粛清を行い死亡。そこからの流れで、ヴェドイーが死んだのを既成事実とし、自分がオルタナ辺境伯に成り代わることを宣言しました。
一体何が目的なんでしょう?単に地位が欲しかった?それとも何か別の目的が?錆色の瞳をした彼の真意は、筆者に読み取ることはできなかった。
[say]オルタナを自分のものにするために、一度諸王連合にオルタナを落とさせ邪魔なものを掃除した上で、再度自分が辺境伯として君臨した・・、こんな流れも考えられるだろうか。つまりモーギスが裏で手を引いているということだが、さすがにこれは現実的ではないか。[/say]
ひよむーとご主人様について
また、ひよむーとご主人様についてもお話したいことがありまして。本巻はいきなり開かずの塔でアウェイク、つまり記憶を失った状態で再度目覚めます。そこにいたのは、
- ハルヒロ
- シホル
- メリィ
- クザク
- セトラ
- キイチ
- イオ
- タスケテ
- ゴミ
これで全部です。14巻にてパラノから脱出したのは、上記面々に加え、
- アリス
- 新山蓮音
この二人がいるはずでしたが、ひよむーのご主人様(筆者はレスリーだと踏んでいる)により、「別の使い途」とやらに使われることが14巻の最後で示唆されています。
なので、パラノ後の構図としては、
[memo title="パラノ後の構図"]
- ハルヒロパーティー組
- ハルヒロ・シホル・メリィ・クザク・セトラ・キイチ
- イオパーティー組
- イオ・タスケテ・ゴミ
- パラノ組
- アリス・新山蓮音
[/memo]
このような3組に分けられ、このうちハルヒロパーティーとイオパーティーが記憶を失った状態でアウェイクし、パラノ組であるアリスと新山蓮音については存在しておらず、15巻中で音沙汰が一切伝えられませんでした。
彼らがご主人様が言う「別の使い途」として扱われていることはほぼ確定的ですが、それが一体なんなのか、かなり謎です。考察を進めようと思っても正直厳しいので、今は謎ということにしておくしかなさそう。
ストーリーについて
他の登場人物について語ってきたところで、ここからはストーリーについて話していきます。
記憶を失わせた意味、あった?
個人的にかなり疑問だったのが、記憶を失わせた意味についてです。先述のように、ハルヒロたちは記憶を再度失った状態で開かずの塔の中で2回目のアウェイクをしますが、ぶっちゃけこれに意味があったのかなって思ってしまいますね。
十文字先生の意図としては、
- やり直し、コンティニューのようなイメージを出したかった
- 心機一転、フレッシュな雰囲気を出したかった
- 記憶を失わせることにストーリー的な意味を持たせたかった
予想されるものとしてはこのようなものだとは思いますが、最後のストーリー的な意味は、少なくとも本巻に限って言えばあまりなかったかなってのが本音です。
そもそもメリィが記憶を失っていないので、完璧に初対面から始まるわけじゃありません。また、ひよむーとご主人様による「遺物(レリック)」の投薬で記憶を失っていることが明らかになりましたが、どうにもこれが完璧ではないようで。
それぞれの人間がどことなく過去のことを思い出していましたし、なんならハルヒロはクザクが生死をさまよっている間、マナトのことを
思い出してました。感情が高ぶったり、生死をさまよったりすると記憶が一瞬蘇るみたいですね。
まあこんな感じで、記憶の失わせ方が中途半端なんですよね。だから、全員一からやり直し、みたいな雰囲気も弱いですし、その分だけ読者からのフレッシュ感も弱い。
こうなるならば、別に記憶を失わせる必要なかったんじゃね?って思ってしまいますね。普通に以前のままやってくれても全然成立する物語だったので、釈然としないまま読了になってしまいました。
グリムガルらしさは随所に見られたものの・・
本巻は、ハルヒロたちが振り出しに戻されたことにより、「原点回帰」のようなコンセプトがあったことが予想されます。実際、物語もダルングガルまでのテンポの良さとサバイバル感が、特に前半部分で戻ってきており、
[say]これこそがグリムガルらしさやで![/say]
と、あのワクワク感を久しぶりに感じられたことを覚えています。
しかし、その後はラノベでありがちな、各勢力の戦争のお話になってしまい、そこのギャップに苦しめられました。
ストーリー的に諸王連合との勢力のぶつかり合いは仕方ないので良いんですが、もうちょいこの「グリムガルらしさ」を味わっていたかった。少なくとも1巻分程度は扱ってくれるかなと思っていたので、正直肩透かしでした。
記憶がないけどどうにかこうにか皆んなでサバイバル生活頑張って、前のことは覚えていないけど大切な仲間だ!みたいな雰囲気で終わる。これをグリムガルの勢力図の上で書くのではなく、ハルヒロたちの等身大スケールで書いて欲しかったなと。
いきなりアラバキア本土の軍に組み込まれてってことになってしまったので、そこに飛躍を感じざるを得ません。もうちょい丁寧に書いてもよかった気がするなぁ。まあ、パラノ編みたいにテンポ悪いのが最悪なので、そこまでのことではありませんが。
ただ改めて考えてみると、記憶を失ってからゴブリンに占拠されたオルタナを奪還するまで、やってることは「1度目」と変わらないなと思いました。最初のアウェイクの時も、ハルヒロたちはゴブリンを倒しまくってゴブリンスレイヤーの名を欲しいままにしたので(誰も欲しくない)、その辺のオマージュは見事だなって感じです。
まとめ
というわけで、灰と幻想のグリムガル15巻「Level.15 強くて儚きニューゲーム」のレビューを行なってきました。
タイトルにもある通り、「ニューゲーム」が始まるのかと思いきや意外とすんなり物語が進んでしまい、良くも悪くもテンポ良く読み終えることができました。
期待していたランタとユメとの出会いですが、そこは本巻では叶わず。しかし、巻末でチラッと出てきましたので、そこは今後に期待ですね。
まあでも、グリムガルらしさは間違いなく感じられたので、普通に買いだと思います。面白かった。以上!